マイク規制条例なんてゴメンだ
    
   スライドシナリオ
   
  1993.6.17
 於・千葉市文化センターホール
 主 催・千 葉 県 弁 護 士 会
 シナリオ 市 川 清 文

これは、『拡声器規制条例』制定に反対する千葉県弁護士会主催の県民集会で上映されたスライドのシナリオです。 

 スライド ナレーション
新聞・雑誌・書籍の写真
テレビ・ラジオの写真           私たちの日常生活に溢れる様々な情報。テレビ・ラジオのよ
うな速報性にとんだメディアから、新聞、雑誌、書籍に至るまで、多くの情報が私たちの生活を支えています。
各種メディアの報道写真        これらの情報は、一方では、国民主権主義のもとで、私たち
の政治的な意志決定に、重要な役割を果たしています。
選挙の写真・看板・公報         正しく、豊かな情報なくして、国民は正しい選択をすること
ができません。マスコミが送り続ける情報は、憲法上、言論表現の自由として保障され、また一方では国民の知る権利に奉仕するものとして、保護されています。
旧軍隊・真珠湾・原爆
マッカーサーの写真           これら言論表現の自由の保障は、戦前、大日本帝国憲法のも
とで、情報が国家によって管理され、国民が何も言えない状態、真実を知ることができない状態の中で、悲惨な戦争への道を転落して行ったことへの、反省に基づいています。
日本国憲法の写真            日本国憲法第21条は、『集会、結社及び言論、出版その他
一切の表現の自由はこれを保障する。検閲はこれをしてはならない。通信の秘密はこれを侵してはならない』と規定し、言論表現の自由を最も重要な基本的人権のひとつとしています。
拡声機を使った集会・デモ
街頭演説等の写真            しかし、言論表現の自由は、マスコミに対してだけ与えられ
ているのではありません。
全ての国民は、主権者として、自分の意見を表明する権利をもっており、世論に訴えかけて、国の政治を変え、私たちの生活を変えて行くことができます。
デモ・集会の写真            一人だけでは影響力は小さいかも知れませんが、集会を開き、
デモ行進を行ない、街頭での宣伝活動を行ない、そうやって世論に訴えかけて行くことによって、小さな力が積み重なり、やがて大きな力になることがあります。
これを報道するマスコミの影響力も無視できません。
拡声機による演説
ビラ配布の写真             しかしこのような草の根の国民運動が、その意見を世論に訴
えるためは、ごく限られた手段しかありません。
その中でも、マイクとスピーカーを使って道行く人々に訴えることは、誰でもが簡便にできる言論表現活動の一つとして、大きな役割を果たして来ました。
声機による演説色々           しかし、今、このマイクとスピーカーによる宣伝活動を否定
するような条例が、各地で作られ続けています。
『拡声機の使用による暴騒音の規制に関する条例』がそれです。
右翼の暴騒音対策を理由に制定され続ける条例。
しかし、この条例は私たちのかけがえのない言論表現の自由をも奪う危険性を秘めています。
《いつなんどき、声を大にして訴えなければならなくなるときが来るかもしれない》
−−そのときのために、今、私たちは、国民の言論手段を守るため、立ち上がらなければならないと思います。
 
タイトル



 

    マイク規制条例なんてゴメンだ
   −− この民主主義をまもるために −−
 



 
音楽最高潮になって、一旦、終わる。
 
『拡声機の使用による
暴騒音の規制に関する
条例』全文  各地で制定されて来た条例は、ほとんど同じ内容と言ってよ
いものです。
それは、次の3つのポイントからできています。
箇条書き                  第一に、拡声機から一〇メートルの地点で最高八五デシベル
を越える音量を一律に禁止したこと。
第二は、これに違反した場合、現場の警察官が停止命令を発することができ、違反者に対しては六カ月以下の懲役を含む刑罰が科されること。
第三は、現場警察官は、その権限行使に必要な範囲で拡声機のある場所に令状なしに立入調査することができ、さらに関係者に対する質問が認められ、これらを拒んだりしたものに対しては、罰金刑が科されること。
まず第一の基準値については、これでは繁華街での拡声機使用が不可能になるという反対の声があります。
どうでしょうか。この一〇メートルで85デシベルというのがどのような音量なのか、数字では、あまりピンときませんね。私たちは実際にこれを測ってみることにしました。
測定会の全体写真            測定場所はJR千葉駅前の広場。モノレールの工事中ですが、
よく街頭宣伝車が宣伝に使用するロータリーの中央に、宣伝カーをおきました。これですと、駅へ出入りする人、付近を通行する人に、話を聞いてもらうことができます。
大きな全体の図面            実験では、スピーカーを三つの方向に向け、それぞれでどの
ような音量で聞こえるかを実験しました。
図面の下の方が駅です。右側に上下に走っているのが内房・外房線、左は総武本線です。上に真っすぐ進むと、パルコやこの文化センターのあるツインビルがあります。
宣伝カーは真ん中の『音』と書いてある場所に止まっています。
全体図の拡大              実験は、まず、この図面の右側、Bと書いてある方向にスピ
ーカーを向けて行ないました。
はじめは、拡声機の音量をごく普通に使われている音量にしました。特に異常な暴騒音でもなければ、逆に音量を意識的に絞ることもしていません。
測定している写真            すると、Bの地点では、拡声機からの声をはっきりと聞き取
ることができました。ちなみに宣伝カーからB地点までは約四〇メートルあります。このときのB地点での音量は七二ないし八八デシベルでした。
C地点での測定写真          同じ音量に対して、図面右上のC地点、横断歩道がある場所
では、ごく普通の音量で拡声機を使ったにもかかわらず、声は全く聞き取ることができませんでした。
宣伝カーからCまでは約八〇メートルある上、すぐ横の道路の暗騒音が大きいためと思われます。
またスピーカーの方向と反対側になるDやEの地点では全く聞き取ることはできませんでした。
暗騒音の説明図             私たちの回りには、自然に発生している暗騒音と呼ばれる雑
音があります。声が相手に届くには、この暗騒音にまけない音量で話をする必要があります。特に千葉駅前のような人通りの多い場所では、自動車や人の行き交う音など、暗騒音が高いといわれています。
その結果、このような場所での宣伝活動では、比較的大きな音量を使用する必要があります。
通常音量の解説図            さて、条例の基準は一〇メートルの地点で八五デシベルとい
うものでした。
では今みた通常音量による拡声機の使用の場合、基準である一〇メートル地点では一体どのくらいの音量となるのでしょうか。測定の結果、一〇メートル地点での音量は七二ないし一〇二デシベルというものでした。
つまり、これまで普通に行なって来た拡声機宣伝では、この一〇メートルの地点で八五デシベルという条例の基準を越えしまうということが分かります。
測定会の写真              次に、私たちは、条例の基準にしたがって拡声機を使った
場合、どの程度に聞こえるのかという実験もしました。
条例の基準は、一〇メートル地点で八五デシベル以下に抑えなければならないというものです。これが一体どういうものかを実際に試してみたのです。
測定記録紙の写真・図面        但、この基準には条件が付いています。つまりこの場合の音
量は最高値を基準とすること、言い換えれば一瞬でも八五デシベルを越えてはならないというものです。
実際に、この基準を守るためにスピーカーの音量調節を繰り返しましたが、人の声は、話の中身や調子によって大きくなったり小さくなったりしますので、かなり絞ったはずでも、瞬間的に越えてしまうということはどうしても避けられませんでした。
規制基準音量概念図          スピーカーの方向は同じくB方向です。
このように苦労して絞った結果はどうだったでしょうか。
結論から言いますと、聴衆がいるであろうB地点では、耳をすましていてもほとんど聞き取ることはできませんでした。このときのB地点での音量は、六五ないし七〇デシベルでした。B地点の暗騒音が六五ないし七〇デシベルでしたから、ちょうど暗騒音と同じレベルの音量ということになります。つまり、拡声機の音が暗騒音に紛れて消えてしまったことになります。
同様に、C地点では拡声機を使っていることすら分からない状態で、全く聞くことができませんでした。
音量減少の概念図           音のエネルギーは距離が二倍になると四分の一になると言わ
れています。一〇メートルといえば、千葉駅前などでは、拡声機のすぐ目の前という距離です。この至近距離の地点を基準とすることによって、聴衆のいる場所にまで届かなくなってしまう。測定会の結果は、距離の重要性を教えてくれました。
測定会の写真              しかも、このようにして音量を絞ってもなお、瞬間的に規制
基準を越えてしまうことは避けられませんでした。仮に、一切、完全に越えないようにしたならば、音量はさらに絞らざるを得ず、そうなればいよいよもって、聞こえなくなってしまうのです。
なお、わたしたちの測定会では、さらにC方向、D方向にスピーカーを向けた場合についても実験しましたが、結果は全く同様でした。
測定会の結果、通常音量で拡声機を使用する場合には、一〇メートルの地点では七五ないし一一五デシベル程度の音量となっており、条例の基準では聴衆には届かないことが明らかになったのでした。
測定会の写真・全体図         このように、条例の採用する一〇メートルの地点で八五デシ
ベルという基準は、繁華街においては全く不合理な基準と言わざるを得ません。
しかも、このように基準自体の不合理さに加え、基準を越えないように測定しながらでなければ拡声機を使えなくなること、そのためには測定器を準備し、担当者を配置する必要があるなど、大変な労力も必要となります。
騒音規制法                各地で条例の制定を進めて来た警察担当者は、この八五デシ
ベルという基準は騒音規制法で採用されている基準だと説明しています。
建設現場・工場の写真         しかし、騒音規制法の基準は、工場や建設現場、道路などの
いわゆる産業公害と、人の生活との調和を図る為に設定された基準です。
高速道路の写真             そこでは、特定の場所で、常時、騒音が生じている場合を想
定し、音が外へこぼれることを規定していることなど、拡声機の場合とは、全く性格が異なります。特に、一〇メートルの地点で八五デシベルという距離については、騒音規制法では全く規定しておらず、説明になりません。
何よりも、産業公害と、言論活動としての拡声機の使用を同一視することは、言論表現の自由を最も基本的な人権の一つとして保障した憲法の原則と相いれないものです。
右翼街宣車の写真  (右翼街宣車のがなり声)
条例の制定を進めてきた警察は、いわゆる右翼の街宣車による暴騒音を取り締まるために、この条例が必要だとしています。現行法では取締の実効性がないというのです。
本当にそうでしょうか。
『文明国の条件』             これは全国の警察を統括する警察庁が作った劇画です。右翼
の暴騒音を取り締まる必要があるが、現行法では実効性がない。そこで条例を作る必要があるというものです。
劇画の当該頁  例えば、●頁では、軽犯罪法14号の静穏阻害罪。これは『公
務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者』というというものですが、この劇画では、軽犯罪法には拘留・科料しかなく現行犯逮捕が制限されているから、実効性がないというのです。
確かに、拘留・科料だけに該当する犯罪の場合、被疑者の身元が明らかであるときには逮捕とその後の勾留が制限されます。
軽犯罪法14号と33号         しかし、同じく軽犯罪法の犯罪類型であるビラ貼罪について
は、警察は、政府に批判的な政治的ビラ貼りを抜き打ちするように検挙しています。そしてたとえ本人が身元を明らかにしたとしても、裏付けが取れるまでは身元が判明したとは言えないとして、勾留しつづけることがあります。
日弁連『ビラまき報告書』        これは、日本弁護士連合会が、軽犯罪法のはり札罪条項な
どの、運用の実態について調査した報告書です。
ここには、同条項が、政治的なビラ貼り、特に政府に批判的な特定の政治的ビラ貼りだけが、突出して多数摘発されていること、逮捕起訴されていることを浮き彫りにしています。
軽犯罪法で警告の写真        このような運用実態は、それ自体大きな問題ですが、軽犯罪
法が規制法規として無力であるとか、実効性がないなどという警察の説明とはおよそ掛け離れたものです。
しかし、一部のいわゆる右翼の暴騒音が問題になってからも、この軽犯罪法の条項を適用して摘発された事例はほとんどありません。
つまり『暴騒音に対して適用したけれども実効性がない』、というのではなく、『適用しよう』、『運用しよう』という姿勢があるのか、疑問をもたざるを得ません。
右翼街宣車の写真次々  (三上殺せのリフレイン)
そればかりではありません。
警察のいういわゆる右翼団体による街宣車活動は、そのほとんどが内容的にも違法性を指摘できるものです。
『殺せ』などという脅迫はいうまでもないところですが、名指しで罵倒する、「大会の開催をさせるな」などと妨害の目的を明示して気勢を上げるなど、多くの場合、刑法上の脅迫、強要、侮辱、名誉毀損、威力業務妨害などの犯罪が成立する疑いがあります。
(右翼街宣車のがなりごえ)
さらには、街宣車ごと蛇行運転をしたり、Uターン禁止場所でUターンする、のろのろ運転をする、一か所に止まって動こうとしないなど、道路交通法を的確に適用すれば、規制できる場合は多いはずです。しかし、実際には、警察はこのような右翼団体の犯罪的行動を十分取り締まろうとしていないのが実情です。
妨害写真                 例えば政党の街頭選挙演説会の場所に右翼の街宣車が乗り付
け、「解散しろ」などと、大音響でこれを妨害した事例について、千葉県弁護士会会員を通じて警察に告訴をした事例がありましたが、これについても警察は必要な捜査を遂げず、その後、不起訴処分になっています。
現行法でも十分に取り締まることができるものまで取り締まろうとしないで、さらに条例を作るというのは、理解に苦しみます。
街宣車の写真  (右翼のがなり声)
さらに、警察のいう、右翼対策のためにという説明には、幾つもの疑問があります。
第一に、この条例は、音のゲリラには無力です。測定器のある場所では音量を下げ、それを過ぎれば再び音量を上げる。もともと人に聞かせるのが目的ではなく、単なる嫌がらせ、音の暴力であってみれば、このようなゲリラ行動は当然予想されることです。
真っ先に条例が制定された岡山県では、条例の制定後にも教職員組合の集会がありましたが、測定器を数十台も準備した警察をあざ笑うかのように、数多くの右翼が結集して大音響を上げながら町中を走り回り、条例はほとんど効果がなかったことが事実をもって明らかになっています。
街宣車が連なった写真         第二に、街宣車が複数台連なっている場合には、どの街宣車
の音量が基準に違反したかの特定ができないので、摘発できません。この場合、条例は警察官が必要な措置を取るように勧告できることにしています。しかし単なる勧告ですから、これに従わなかった場合にも罰則はありません。
集会の妨害の際などは、多くの街宣車が終結して統一行動をとることがよくみられます。この場合、条例では勧告しか出来ないことになります。
夜間の住宅街               この条例に実効性がない第三の理由は、条例の基準が時間、
場所を問わず、一律であるという、その荒っぽさにもあります。
条例は、一〇メートルの地点で八五デシベルという一律の基準しかもっていません。しかし深夜の住宅街などでは、暗騒音は極めて低いので、一〇メートルの地点で八五デシベル近い音量を発した場合には、文字どおり暴騒音となります。しかし、これは条例の一律基準には違反しないことになり、警察は手が出せないことになってしまいます。
学校・病院の写真            もちろん学校や病院などの場合も同様です。
このように、条例は、その説明にもかかわらず、いわゆる右翼の暴騒音対策としては、抜け穴だらけのものと言わざるを得ません。
その一方で、繁華街で道行く人々にまじめに訴えようという通常の宣伝活動に対しては、正面からこれを規制するものとなってしまいます。
日弁連の会長声明は、『角を矯めて牛を殺す』ものと表現しましたが、むしろ『副作用だけが異常に強い割に、ほとんど効き目のない薬』という言い方ができるのではないでしょうか。
新聞の写真・右翼のみ  警察や当局は、この条例はいわゆる右翼に対してだけ適用す
る、正常なものには適用しないと説明しています。しかし、そんなことが可能でしょうか。
そもそも、すべての人は法のもとに平等であり、特定の思想信条の持ち主だけが検挙の対象になること自体、許されないことです。
東京都の条例が問題となったとき、鈴木都知事は、すべての人に平等に適用されると明言しました。条例が制定された場合には、これが、いわば当然の措置なのです。つまり、「右翼暴力団のみに適用」などというのは、人を欺くものです。
漫画 停止命令の図          現実に、熊本では、ビラ貼りに対する検挙に抗議した人達に
対し、警察が条例違反を理由とする停止命令を発したことが明らかになっています。
新聞の写真・内規
「明文の除外規定をおけ
ばいいのに」のコメント          これに対して、「右翼暴力団のみに適用する旨を内規に規定
するから大丈夫」などという説明もされました。しかし、内規は見せないといいます。これもまた人を欺くものです。内規は法規ではありませんから、これを無視して正常な言論を取り締まったとしても特に救済される訳ではありません。
「それならば条例の中に、明文で、正常な拡声機使用には適用しない旨の除外規定をおけばよい」ということになりますが、警察は、これに対しては耳を貸そうとしません。
これもまた、極めて不明朗な態度と言わざるを得ません。
除外規定の条項             条例には、どこのものにも必ず除外規定があります。公職選
挙法上の選挙活動や学校行事、自治体の業務活動、お祭り、災害救助活動などが、適用対象から除外されています。
こういうものが保護されるのは当然です。ではなぜ、除外規定にわざわざ書かれているのでしょうか。それは、これらの行為が、通常、条例の基準を越えてしまっているからなのです。
選挙活動の写真・お祭り
学校の運動会              護士会の実験では、通常の宣伝活動は、条例の基準を簡単
に越えてしまいました。つまり、この基準だと選挙運動も、学校の放送も、お祭りも、災害救助活動なども、みんな条例違反でできなくなってしまうのです。だから、あえて明文で外さなければならなくなってしまったのです。
適用除外規定。
それは、条例の基準では、通常の拡声機使用が不可能になることを、条例自体が認めたものということができます。
しかし、この適用除外規定には、通常の言論表現活動は入れられていません。つまり、規制から除外されません。
「選挙活動は認めるが、それ以外の言論活動は認めない」
−−−そうだとすると一般国民の言論活動にとって、大きな問題が残ることになります。
適用上の注意規定           このような問題に対し、適用上の注意規定、あるいは運用上
の注意規定というものが設けられて来ました。そして警察は、これまで普通に行なわれて来た街頭宣伝などについては、運用上の注意規定があるから大丈夫という説明をしています。たとえば神奈川県の条例には次のような条項があります。
このような注意規定で、実際にどのような効果があるのでしょうか。
『第7条(運用上の注意)
この条例の運用に当たっては、集会及び結社の自由、表現の自由、勤労者の団体行動をする権利等日本国憲法に保障された基本的人権を最大限に尊重し、国民の権利を不当に害し
ないように留意しなければならない。』
刑事法専門の九州大学・大出良知教授は次のように指摘しています。
大出教授の
  写真                   『このような注意規定に違反した起訴が行なわれた場合、犯
罪の成立に影響するかを考える必要があります。
例えば、市民団体のごく普通の街頭宣伝が条例違反として検挙され、起訴されてしまった。その場合、この注意規定に違反した起訴であるとして、無罪になるかどうかという問題です。
 結論から言いますと、このような場合、仮に注意規定に違反していたとしても、犯罪の成立には影響しないというのが、学者の大多数の見解です。
軽犯罪法第4条             問題の拡声機条例についてはまだ裁判例がありませんが、同
様の注意規定がある軽犯罪法の例では、裁判所は、《当たり前のことを書いただけで、犯罪の成立や刑の減免の理由となるものではない》、つまり犯罪の成立とは関係ないとしました。
拡声機の条例の場合も理屈は同じと考えざるを得ないと思います。
つまり、注意規定があったからといって、安心ではないのです。
本当に通常の言論活動を除外するのであれば、選挙運動のように除外規定をおく必要があります。』
軽犯罪法の判例             このように、注意規定は、条例の適用・犯罪の成立の場面で
は、事実上、意味をもっていないというのが、専門家の見方です。
これに対しては、現場警察官が、注意規定を守るから、通常の街頭宣伝は規制されないだろうという見方がありますが、正しいでしょうか。
この点では、軽犯罪法の運用の実態が参考になります。
日弁連ビラまき報告書         先程の日弁連報告書では、政治的なビラ貼り、特に政府に批
判的な特定の政治的ビラ貼りだけが、突出して多数摘発されていること、逮捕起訴されていることを浮き彫りにしています。適用上の注意規定は、国民の基本的権利を守るためにわざわざ付け加えられたものでしたが、実際の運用実態は、この注意規定を全く無視した形で進められて来たのです。
 
《音楽》
解説図
《立入調査・質問権》           この条例は、音量規制が不合理というだけではありません。
現場警察官に拡声機のある場所への立入および調査権限を認め、さらに関係者への質問権を認めて回答を強制します。
本来、警察が捜索をする場合には裁判官の発した捜索令状が必要ですが、この条例は、「令状はいらない」とするのです。つまり、裁判所のチェックなしに、現場警察官の判断で立入調査ができることになります。
さらに条例は、質問に答えない者を処罰するなど、黙秘権を根こそぎ奪う規定を設けています。
 
さて、こうして条例ができたとすると、実際にはどのようなことになるのでしょうか。将来の様子をちょっと除いてみようと思います。
《夢見るような音楽》
 
第1場
漫画



 
  199X年8月         千葉
  《〓》 拘禁2法反対!
        コラッ! 《警察》
 



 
《199X年8月、代用監獄を恒久化する拘禁二法が国会で強行採決されそうになり、全国的に反対運動が広がって居ました。ここ千葉駅頭でも、労働者による宣伝活動が行なわれていました。》
A 皆さん。冤罪を生む代用監獄を廃止しましょう。強行採決は絶対に
許せません。
《そこへパトカーが駆けつけて来ました。》
警察 こら、音が大きいぞ! ちょっと降りてきなさい。
A いえ、85デシベルを越えないようにはかっていますから・・。
警察 弁解はいい。いろいろききたいんだから、とにかく降りてきなさ
い。
A 今、演説中です。演説が終わってからにして下さい。
警察 何、調査を拒否するのか。
A 拒否はしません。すみません。今すぐに降りて行きます。
警察 名前は。演説はだれに頼まれたんだね。この宣伝カーはだれのも
のだね。音量の測定をしている者の名前をいいなさい。アンプを見せてもらうよ。
A もうやめて帰りますから。
警察 やめると言っても調査は調査だ。質問に答えなさい。答えなけれ
ば質問忌避罪ということになる。
B 悪法の見方をする警察は許さないぞ!
警察 忌避!
《こうして、労働者たちは、その場で逮捕連行され、宣伝カーも証拠品として押収されました。
第2場
漫画



 
  199Y年   東京
  スピーカー
  〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
      《警察》



 
 
《199X年東京。自衛隊の海外派兵に反対する緊急集会が市民公園で開かれていた。
スピーカーの設営も終わったころ、私服警官が10人ほどやって来た。》
 
警察 ちょっとスピーカー関係を見せてもらうよ。
C 何をするんですか。今セットしたばかりですよ。
警察 アンプの状態じゃ、120デシベル以上出るようになっているね。
C だってここは住宅街から離れているし、人の迷惑に何かなりません
よ。それに宣伝カーを使っているわけじゃないし。
警察 ばかを言っちゃいかん。条例では宣伝カー以外にも、使用中の土
地と隣の土地の境界線で85デシベルを越えてはいかんという制限もあるんだ。いいか、ここで図らせてもらうからね。85デシベル、越えないようにな。
《やがて人が集まり、集会が始まりました。ある政党の党首が主催者の代表の一人としてあいさつをはじめます。》
D 集会にお集まりの皆さん。政府は、何が何でも自衛隊を海外に派兵
しようとしています。それは再び、日本を外国侵略への道に進ませるものではないでしょうか。
警察 85デシベルを越えている。音量を下げなさい。
D 皆さん。この集会を警察が妨害しようとしています。言論の自由が
保障されているはずのこの日本で、このような大きな集会にスピーカーが使えないなどということが許されてよいのでしょうか。
《いっせいに鳴る、ピーという笛の音》
《笛の合図とともに、飛び出した私服警官、制服警官。そして機動隊員らがもいっせいに飛び出し、政党党首が逮捕され、先程スピーカーの状態等について対応していた集会役員の市民団体関係者らもまとめて逮捕されました。会場のあちこちに設置されていたスピーカーなどもいっせいに取り外され押収されました。集会参加者は、警察がの横暴をなじるシュプレヒコールを繰り返しながら遠巻きに散って行きました。》
 
第3場
漫画


 
  199Z年   東京・新宿
  《〓》
      〓     測定器《警察》


 
 
《拡声機規制条例ができて、めっきり街頭演説が減ったとある日。
このころの宣伝カーには、条例の基準に違反しないよう、10メートルの地点で八五デシベル以上の音が出ないような特殊な装置が取り付けられるようになっていました。
新宿。
国会では、海外派兵のための憲法改正が問題となっていましたが、ここ新宿では、著名な憲法学者があつまって改正反対を訴えていました。
しかし、この音量自制装置がつけられているため、演説の声は、自動車の行き交う音などの暗騒音に紛れてほとんど聞き取れません。道行く人々もほとんど演説に気が付かないようで通り過ぎてゆきます。近くに警察官が二人、測定器をながめなにがら、つまらなそうに座っていました。
 
第4場
漫画




 

199X年3月
      
                《警察》
 




 
《S議員の街頭演説は、雑踏を避けてしだいに小さな駅前などに変更されて来ていました。たくさんの人にきいてもらえる大きな駅前などでは、雑音が大きいため、これに負けないような音量を出そうとするとすぐに条例の基準を越えてしまうからです。しかし、金権腐敗の問題を訴えるようになてからは、いわゆる右翼を標榜する宣伝カーが妨害にやってくるようになりました。
私鉄沿線のとある小さな駅前。S議員が宣伝カーを駅前広場に止め、ぱらぱらとしかいない人々に向かって訴え始めました。すると、まもなく、いつもの右翼を標榜する街宣車がやってきて軍艦マーチを大音量で流し、妨害を始めました。
S議員は、これに負けまいと、声を振り絞ります。とたんにパトカーが1台現れました。》
警察 ちょっと降りてきなさい。85デシベル越えているから、二台と
も駅前から立ち去りなさい。
S 冗談じゃない。私は先にここで演説していたんです。右翼だけでな
く警察まで、演説の妨害をするのか。
警察 とにかく85デシベルを越えているんだ。どちらが越えているの
かがはっきり分からない場合には、是正のための勧告ができるんだ。知っているだろう。
おや、随分ボリュームをあげているね。ちょっと見せてもらおうかな。
S じゃやめて帰る。帰ればいいんだろう。
警察 やめればいいってもんじゃない。話をききたいんだ。
《S議員と警察官が押し問答を始めた頃、右翼を標榜する街宣車は悠々と立ち去って行きました。》
 
日本地図の写真  現在までに、この、拡声機を使った宣伝活動を規制する条例
が、29の都府県で制定されました。
その内容は、ほとんど同一と言ってもよいものです。
それも一昨年まで8つの自治体だけだったものが、昨年は14増え、今年の3月議会だけでさらに7箇所で制定されました。
『拡声機の使用による
暴騒音の規制に関する
条例』各地のものの写真  国民の言論活動に影響するこのような重要な規制が、もし法
律案の形で国会に上程されたら、おそらく大きな議論が巻き起こっていたでしょう。しかし、実際には法律ではなく、条例の形態で、ほとんどの国民に知らされないままにどんどん作られて来たのです。
各地の弁護士会の声明
・意見書・決議等  この条例案が発表された自治体では、各地の弁護士会がその
内容の危険性から、反対あるいは慎重審議を求める声明、意見書、決議等を相次いで発表して世論に訴えました。
昨年、東京都で条例が制定されようとしたときには、日本弁護士連合会が、一地方の条例に対しては異例と言われる会長声明を発表しました。
その内容は、この条例が街頭での国民の正当な言論活動の自由を侵害する恐れがあること、手続的にも現場警察官に強大な権限を与え、裁判官の令状がなければ侵されないという令状主義や黙秘権を否定するものであり、人権上、重大な問題があるというものです。
そして、声明は、この条例は、「角を矯めて牛を殺すもの」と強い調子で見直しと慎重審議を求めました。
しかし、このような各地の弁護士会の反対運動にも関わらず、条例案が上程された自治体では、次々と、可決制定されて来ました。
それは、このような重要な内容をもっているにも関わらず、条例案が、突然上程されてほとんど審議もなしに可決されてきたという、特殊な手順を踏んで来たことに関係するものと言わざるを得ません。
◆◆◆では上程から委員会での可決まで◆◆日、その後本会議での審理は◆◆日で可決。◆◆◆では上程から委員会での可決まで◆◆日、その後本会議での審理は◆◆日で可決。
京都に至っては、議会が始まっても条例案が提出されず、議会閉会のわずか◆日前に突然追加議題で提出されてほとんど議論もなしに可決されるというものでした。
公聴会開催請願  重大な条例案の場合には、住民の意見を聞く公聴会を開催す
ることができることになっていますが、拡声機規制条例の場合には、一度もこの公聴会が開催されたことがありません。慎重審議を求める住民が、公聴会の開催を請願しても、やはり否定されました。
そこには、この条例案のもつ重大な問題点について議論をさせず、何が何でも通してしまうという、極めて不明朗なものを感じさせずにはいません。